「何が言いたいか分からない」を卒業!自分の気持ちを明確にするアサーション術
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人間関係において、「言いたいことがうまく言えない」「自分の気持ちがモヤモヤして、何に困っているのかさえ分からない」と感じることはありませんでしょうか。職場で上司や同僚からの頼みを断りきれず、結果的に業務過多になってしまったり、自分の意見を言えずにストレスを抱え込んだりする経験は、決して少なくありません。
アサーションは、単に自分の主張を通すことではありません。自分の気持ちを大切にし、それを相手にも尊重してもらえるよう、建設的に伝えるためのスキルです。そして、その第一歩は、自分自身の気持ちを明確に理解することから始まります。
この記事では、「何が言いたいか分からない」という状態から卒業し、自分の気持ちを整理し、明確にするためのアサーション術を具体的にお伝えいたします。自分の内面と向き合い、より健全な人間関係を築くための第一歩を踏み出しましょう。
なぜ自分の気持ちが分からなくなるのでしょうか?
私たちは日々の生活の中で、様々な感情を抱いています。しかし、その感情を自分自身で正確に把握し、言葉にするのが難しいと感じる時があります。その背景には、いくつかの要因が考えられます。
- 「こうあるべき」という思い込み: 「仕事なのだから我慢すべき」「先輩の頼みは断るべきではない」といった、社会的な役割や期待に縛られすぎることがあります。
- 相手への過度な配慮: 相手を傷つけたくない、嫌われたくないという気持ちが強すぎて、自分の感情を押し殺してしまうことがあります。
- 感情の抑圧: 幼い頃からの習慣や経験によって、自分の感情を感じること自体を避けてしまう傾向があるかもしれません。
- 情報の多さと複雑性: 一度に多くの情報や感情が押し寄せ、どれが本当に重要なものか区別がつかなくなることもあります。
これらの要因が重なると、自分の心の中に漠然としたモヤモヤだけが残り、「一体何に困っているのだろう」「どうしたいのだろう」と、ますます分からなくなってしまうのです。
自分の気持ちを明確にするアサーション術5つのステップ
自分の気持ちを理解し、整理することは、アサーションスキルの土台となります。ここでは、具体的な5つのステップをご紹介いたします。
ステップ1: 漠然とした感情に「ラベル付け」をする
まず、心の中にある漠然とした「モヤモヤ」や「違和感」に、具体的な名前をつけてみましょう。
- 具体的な感情の言葉を探す: 「モヤモヤ」が「不安」なのか、「不満」なのか、「疲労」なのか、「怒り」なのか、「悲しみ」なのか、それとも「期待外れ」なのか。感情を表す言葉のリストなどを参考に、一番しっくりくる言葉を選んでみてください。
- 例: 「この仕事を頼まれた時、なんだかモヤモヤする」→「これ以上引き受けたら、納期に間に合わなくなるかもしれないという不安がある」
- 例: 「同僚の態度にイライラする」→「自分だけが負担を強いられていることに対する不公平感がある」
- 感情を言葉にする練習: 毎日少しの時間で、その日の感情を言葉にする練習をしてみましょう。「今日は少し疲れている」「あの出来事に対して少し不満を感じている」など、簡単なことから始めるのがおすすめです。
ステップ2: その感情の「原因」を探る
感情に名前をつけたら、次に「なぜそのように感じるのか」原因を掘り下げてみましょう。
- 具体的な状況や事実と結びつける: 感情は、ある特定の状況や出来事、相手の言動によって引き起こされることが多いです。「何があったからそう感じるのか?」「誰の、どのような行動が影響しているのか?」という視点で考えてみてください。
- 例: 「納期に間に合わない不安がある」→「今抱えている仕事の量と、新しく頼まれた仕事の工数を考えると、物理的に厳しい事実があるからだ」
- 例: 「不公平感がある」→「同僚が頻繁に定時で帰る一方で、自分は残業して後処理をしている状況があるからだ」
- 「誰が悪いか」ではなく「何が原因か」に焦点を当てる: 相手を非難するのではなく、あくまで客観的な状況や、自分自身の内面で何が起きているのかを探る姿勢が大切です。
ステップ3: 「どうしたいか」「どうなりたいか」を考える
自分の感情と原因が明確になったら、次に「自分はどうしたいのか」「この状況をどう変えたいのか」という具体的な要望を考えてみましょう。
- 自分のニーズを特定する: 相手にどうしてほしいか、という他者への期待ではなく、「自分はどうありたいか」「自分にとって何が必要か」という視点で考えます。
- 例: 「納期に間に合わない不安」→「品質を落とさずに仕事を完了させるために、追加の時間を確保したい。あるいは、一部の業務を誰かに振り分けたい」
- 例: 「不公平感」→「自分の業務量を適切に評価し、調整してほしい。あるいは、同僚にも公平に業務を分担してほしい」
- 「〜だったらいいのに」を具体化する: 漠然とした願望ではなく、具体的な行動や状態として表現できるよう、掘り下げてみてください。
ステップ4: アサーティブな表現を組み立てる
自分の気持ち、原因、要望が明確になったら、いよいよそれを相手に伝えるための表現を組み立てます。
- 「I(私)メッセージ」を使う: 相手を非難する「You(あなた)メッセージ」(例:「あなたはいつも〜する」)ではなく、自分の感情や事実を主語にした「Iメッセージ」(例:「私は〜と感じています」)で伝えることが重要です。
- フレームワークの活用:
- 「(事実)が起きた時、私は(感情)を感じています。できれば(要望)していただけると助かります。」
- 例: 「〇〇の件で、私だけが残業している状況が続いているため、正直、不公平感を抱いています。もし可能であれば、今後の業務分担についてご相談させて頂く時間はありますでしょうか。」
- 具体的なフレーズ例:
- 「〜と感じています」
- 「〜していただけると助かります/ありがたいです」
- 「私の認識では〜なのですが、いかがでしょうか」
- 「〜について、少し懸念していることがあります」
- フレームワークの活用:
- 練習のヒント: 声に出して何度も練習してみる、鏡の前で話してみるなど、実際に口に出す練習は、自信を持って伝えるために非常に有効です。
ステップ5: 小さなことから実践する
完璧なアサーションを目指す必要はありません。まずは身近な状況や、比較的伝えやすい相手から始めてみましょう。
- 「今日は〜をお願いしたいです」: 職場でコーヒーを淹れる当番や、ランチの注文など、日常のささいなことから自分の要望を伝えてみる。
- 「〜は少し難しいです」: 頼まれごとがあった時に、すぐに返事をするのではなく「少し考えさせてください」と保留にしてみる。
- 「ありがとうございます」を伝える: 感謝の気持ちを具体的に伝えるのもアサーションの一つです。ポジティブな感情表現も練習になります。
自宅でできる実践練習:気持ち発見ノートのすすめ
「何が言いたいか分からない」状態を克服するために、自宅で手軽にできる練習として「気持ち発見ノート」をつけることをおすすめします。
- ノートとペンを用意する: どのようなものでも構いません。
- その日感じたことを書き出す: 毎日、その日あった出来事や、それに対して自分がどう感じたかを自由に書き出します。具体的な出来事だけでなく、漠然とした感情でも構いません。
- 例: 「今日はAさんに急ぎの仕事を頼まれたけど、自分の仕事が終わらずモヤモヤした。」
- 感情のラベル付けと原因を考える: 書き出した感情に、ステップ1と2で学んだようにラベルをつけ、原因を考えます。
- 例: 「モヤモヤ」→「時間がないことへの焦りと、自分の意見を言えなかったことへの後悔」
- 例: 「原因は、Aさんが頼んできたのが締め切り間際だったことと、私がすぐに『はい』と言ってしまったことだ。」
- 「どうしたいか」を書き出す: もし同じ状況が起こったらどうしたいか、どのように伝えたいかを具体的に書き出してみましょう。
- 例: 「次回からは、『今抱えている仕事の進捗状況をお伝えしてもよろしいでしょうか』と一度立ち止まって、現状を共有する形で断りたい。」
この練習を続けることで、自分の感情のパターンや、何が自分のストレスになっているのかが徐々に見えてくるようになります。
まとめ:自分を大切にする第一歩を踏み出しましょう
自分の気持ちを明確にすることは、アサーションスキルの最も重要な基盤です。このスキルを身につけることで、あなたは以下のような変化を実感できるでしょう。
- 人間関係のストレスが軽減され、心穏やかに過ごせる時間が増える
- 自分の意見や要望を適切に伝えられるようになり、自信が持てる
- 仕事や私生活において、より自分らしい選択ができるようになる
- 他者とのコミュニケーションがスムーズになり、建設的な関係を築ける
「何が言いたいか分からない」という状態は、決してあなた一人の問題ではありません。多くの人が抱える悩みです。しかし、今日お伝えしたステップを一つずつ実践していくことで、あなたは確実に変わることができます。
焦る必要はありません。まずは小さな一歩から、あなたの気持ちを大切にすることから始めてみませんか。