「気まずくならない?」アサーティブに伝えても人間関係を良好に保つコツ
人間関係のストレスを軽減し、自分の気持ちを大切にするためにアサーションスキルに関心をお持ちのあなたは、きっと真面目で周りの人への配慮を忘れない方なのではないでしょうか。
「自分の意見をはっきり伝えたい」「頼まれごとを断りたい」そう思っても、「相手との関係が悪くなるのでは」「嫌われたらどうしよう」と不安に感じることはありませんか。せっかくアサーションを学んでも、実践することで人間関係に溝ができてしまっては本末転倒だと感じるかもしれません。
アサーションは、決して相手を攻撃したり、一方的に自分の意見を押し通したりするものではありません。自分も相手も尊重し、より良い関係を築くためのコミュニケーションスキルです。
この記事では、アサーションを実践しても人間関係を良好に保ち、むしろより信頼される関係を築くための具体的なコツとフレーズをご紹介いたします。
アサーションへの誤解を解消する:なぜ「気まずさ」を感じるのか
まず、「アサーティブに伝えると気まずくなる」と感じる背景にある、いくつかの誤解を解消しましょう。
1. アサーションは「攻撃」ではないことを理解する
アサーションは、自分の意見や感情を正直に、率直に伝えることですが、それは決して相手を非難したり、攻撃したりするものではありません。
- 非主張的コミュニケーション: 自分の気持ちを抑え込み、相手に合わせすぎる(「NO」が言えない、意見がないように見える)
- 攻撃的コミュニケーション: 自分の意見を押し付け、相手の意見や気持ちを軽視する(高圧的、感情的)
- アサーティブコミュニケーション: 自分も相手も尊重し、正直かつ建設的に意見を伝える(率直で誠実、対話を促す)
アサーションは真ん中に位置し、相手を尊重する姿勢が根底にあります。攻撃的に聞こえるのは、伝え方や、アサーションではない行動と混同している可能性が高いのです。
2. 「言いたいことを言うと嫌われる」という思い込みを手放す
「正直な気持ちを伝えたら、相手に嫌われるかもしれない」という不安は、多くの方が抱えているかもしれません。しかし、本当にそうでしょうか。
むしろ、自分の意見を言わないことで「何を考えているか分からない」「不満を抱えているのではないか」と誤解されたり、我慢を重ねて関係が破綻してしまったりすることもあります。アサーティブなコミュニケーションは、誤解を減らし、誠実な人として信頼を深めることにつながります。
関係性を良好に保つためのアサーティブな伝え方5つのコツ
では、具体的にどのような点を意識すれば、アサーションを実践しながらも良好な人間関係を維持できるのでしょうか。5つのコツをご紹介します。
1. 「I(アイ)メッセージ」で事実と感情を区別して伝える
「I(アイ)メッセージ」とは、「私は~と感じています」「私は~してほしいと思っています」と、主語を「私」にして自分の気持ちや考えを伝える方法です。
- You(ユー)メッセージ(相手を主語にする): 「あなたはいつも資料の提出が遅いですね」→相手を非難しているように聞こえ、反発を招きやすいです。
- I(アイ)メッセージ(自分を主語にする): 「資料の提出が遅れると、私は次の作業に進めず困ってしまいます」→自分の状況と感情を伝え、相手に理解を求める形になります。
自分の感情や状況を具体的に伝えることで、相手は攻撃されていると感じにくく、あなたの状況を理解しようと努めてくれるでしょう。
2. 相手への配慮を示す「クッション言葉」を活用する
直接的な表現を和らげ、相手への敬意や配慮を示す「クッション言葉」を上手に使うことで、相手は話を受け入れやすくなります。
- 「大変恐縮ですが」
- 「お忙しいところ申し訳ありませんが」
- 「せっかくお声がけいただいたのですが」
- 「お力になりたい気持ちはやまやまですが」
これらの言葉を添えることで、あなたの真意(相手を尊重していること)が伝わり、断りや意見も穏やかに受け止めてもらいやすくなります。
3. 代替案や協力姿勢を具体的に提示する
「できません」「反対です」と伝えるだけでは、相手は「突き放された」「協力してくれない」と感じるかもしれません。もし可能であれば、代替案を提示したり、協力できる範囲を示したりすることで、相手への配慮や建設的な姿勢を示すことができます。
- 「申し訳ありません、今週は手が離せないため、来週でしたらお手伝いできますがいかがでしょうか」
- 「その企画は難しい点もありますが、もし〇〇の改善ができれば、より良いものになるかと思います」
このように、全くのゼロ回答ではなく、前向きな姿勢を見せることで、相手も「協力してくれようとしている」と感じてくれるでしょう。
4. 感謝の気持ちや労いを忘れずに伝える
何かを断る際や、意見を述べる際にも、まず相手の労力や気持ちに感謝の言葉を添えることで、コミュニケーションは円滑になります。
- 「頼っていただきありがとうございます。大変光栄なのですが、今抱えている業務が立て込んでおり、今回はお引き受けが難しい状況です。」
- 「貴重なご意見ありがとうございます。その上で、私の考えもお話しさせてください。」
感謝の言葉は、あなたの誠実さを伝え、相手に「自分を尊重してくれている」という安心感を与えます。
5. タイミングと場所を考慮する
どんなに素晴らしい伝え方でも、タイミングや場所が不適切では、効果が半減してしまいます。
- タイミング: 相手が忙しそうにしている時や、感情的になっている時は避けるのが賢明です。落ち着いて話せる時間帯を選びましょう。
- 場所: 他の人がたくさんいるオープンな場所よりも、少し落ち着いて話せる場所を選ぶ方が、相手もあなたの話に耳を傾けやすくなります。
急な申し出であれば「少しお時間いただけますでしょうか」と、話すための時間を設けることも大切です。
具体的な状況別フレーズ例
ここでは、佐藤さんのようなシチュエーションで、これらのコツをどのように活用するか具体例を見ていきましょう。
シチュエーション1:上司や同僚から、急な業務を頼まれたが、既に業務過多の場合
- 悪い例: 「無理です」「今忙しいのでできません」
- アサーティブな伝え方: 「〇〇さん、お声がけいただきありがとうございます。大変恐縮なのですが、現在抱えているAの業務が〇日までで、Bの業務も並行して進めている状況でございます。せっかくお声がけいただいたところ申し訳ございませんが、今回の件はすぐに着手することが難しく、もしよろしければ〇日以降でしたらお手伝いできますが、いかがでしょうか。」
シチュエーション2:会議で自分の意見を言いたいが、遮られたり、意見を言いにくい雰囲気の場合
- 悪い例: 黙ってしまう、諦めてしまう
- アサーティブな伝え方: 「皆さん、活発な議論ありがとうございます。一つ、補足させていただきたい点がございます。〇〇さんのご意見も大変参考になるのですが、私は□□の観点から、△△のようなアプローチも有効だと考えております。いかがでしょうか。」
シチュエーション3:同僚の行動に少し不満があるが、伝えにくい場合
- 悪い例: 我慢してストレスを溜める、陰で不満を言う
- アサーティブな伝え方: 「〇〇さん、少しお話しさせていただいてもよろしいでしょうか。先日、共有ファイルが更新されていなかった件なのですが、私はそのことで資料作成が一時的に止まってしまい、少し困ってしまいました。もし可能でしたら、ファイル更新の際は一言ご連絡いただけますと大変助かります。」
実践と継続のための心がけ
アサーションスキルは、一度学んだらすぐに完璧にできるものではありません。少しずつ実践し、慣れていくことが大切です。
- 完璧を目指さない: 最初から完璧なアサーティブな伝え方を目指す必要はありません。まずは小さなことから試してみましょう。例えば、職場のランチで自分の希望を伝えてみる、などでも構いません。
- 相手の反応はコントロールできないと理解する: あなたがどんなにアサーティブに伝えても、相手が期待通りの反応をするとは限りません。相手の反応は相手の問題であり、あなたの伝え方が悪かったとは限りません。
- 小さな成功体験を積み重ねる: 「あの時、自分の気持ちを伝えられた」「断れたけど、関係が悪くならなかった」という小さな成功体験が、次の実践への自信につながります。
アサーションは、自分を大切にしながら、周りの人ともより良い関係を築くための強力なツールです。不安を感じるかもしれませんが、一歩踏み出して実践することで、きっとあなたの人間関係はよりスムーズで、ストレスの少ないものへと変化していくことでしょう。
ぜひ、今日からご紹介したコツを意識して、アサーティブなコミュニケーションを試してみてください。