「言いたいこと」をあきらめない!職場での意見を上手に伝えるアサーション入門
「言いたいことはあるけれど、うまく伝えられない」「意見を言うと、人間関係が悪くなるのではないかと不安になる」といった気持ちを抱えていませんか。職場では、自分の意見を適切に伝えることが求められる場面が多くあります。しかし、どのように伝えればよいのか分からず、結局何も言えずにモヤモヤした気持ちを抱えてしまう方もいらっしゃるかもしれません。
この記事では、自分の気持ちを大切にしながら、相手も尊重しつつ職場での意見を上手に伝えるためのアサーションスキルをご紹介します。具体的な状況に合わせた伝え方のヒントや、今日から実践できる練習方法を通じて、あなたがより自分らしく、そして気持ち良く働けるようになるためのお手伝いができれば幸いです。
1. 意見を伝えられないのはなぜでしょうか?
まず、なぜ私たちは自分の意見を伝えることにためらいを感じるのか、その背景について考えてみましょう。
- 衝突への恐れ: 意見を伝えることで相手を怒らせたり、関係が悪化したりすることを恐れる気持ちがあります。
- 嫌われることへの不安: 自分の意見が受け入れられず、孤立してしまうのではないかと心配になることがあります。
- 伝え方が分からない: 感情的にならず、建設的に意見を伝える具体的な方法を知らないため、どう話せばいいか迷ってしまいます。
- 自信のなさ: 自分の意見に自信が持てず、「間違っていたらどうしよう」と考えてしまうこともあります。
このような気持ちは、決してあなただけが抱えているものではありません。多くの方が同様の悩みを抱えています。しかし、アサーションを学ぶことで、これらの壁を乗り越え、自分らしいコミュニケーションを築くことが可能になります。
2. アサーションとは?自分の意見を尊重しながら伝えるスキル
アサーションとは、自分の意見や気持ち、要求を、相手の権利や気持ちを侵害することなく、正直かつ率直に表現するコミュニケーションスキルです。決して一方的な自己主張や、相手を攻撃するものではありません。
アサーションの重要なポイント
- 自分を大切にする: 自分の感情やニーズを認識し、それを表現する権利があると信じることです。
- 相手を尊重する: 相手にも意見や感情があり、それを表現する権利があることを認め、敬意を払うことです。
- 正直である: 遠回しな言い方や、あいまいな表現ではなく、自分の真意を伝えることです。
つまり、アサーションは「自分も相手も大切にする」という土台の上に成り立っています。自分の意見を伝えることは、わがままや攻撃ではなく、むしろ健全な人間関係を築くための第一歩となるのです。
3. 職場での意見表明に役立つアサーティブな心構え
自分の意見をアサーティブに伝えるためには、まず内面的な心構えを整えることが大切です。
- 自分の意見には価値があると信じる: あなたが持つ意見や考えは、チームや組織にとって貴重な視点となる可能性があります。自分の意見が貢献できると信じましょう。
- 相手には理解する権利と責任があると考える: あなたが意見を伝えたとき、相手にはそれを聞く、理解しようと努める、そして必要に応じて対応する責任があります。また、相手があなたの意見を完全に受け入れない可能性も理解しておくことが重要です。
- 結果をコントロールしようとしない: 意見を伝えた後の相手の反応や結果は、あなたが完全にコントロールできるものではありません。自分の役割は、正直かつ建設的に伝えることだと認識しましょう。
- 完璧を目指さない: 最初から完璧にアサーティブに話せなくても、少しずつ意識して実践することで、徐々に身についていきます。
4. 【実践】意見を上手に伝える具体的なアプローチ
具体的な状況を想定し、どのように意見を伝えていけば良いのかを見ていきましょう。ここでは、アサーションの代表的な手法の一つである「DESC法」を参考に、具体的なフレーズと合わせてご紹介します。
DESC法とは? 意見や要望を伝える際に、以下の4つのステップで話を進める方法です。
- D (Describe - 描写する): 客観的な事実や状況を具体的に述べる
- E (Express - 表現する): その事実に対して自分がどう感じているか、どう思っているかを伝える
- S (Specify - 特定する): 相手に具体的にどうしてほしいか、自分は何をしたいかを提案する
- C (Consequence - 結果を伝える): その提案が実現した場合に、どのような良い結果が期待できるかを伝える
具体的な状況例とフレーズ
状況1:仕事の進め方について改善提案をしたい場合
「このままでは効率が悪い」と感じていても、頭ごなしに否定するのではなく、建設的な提案として伝えます。
- D (Describe): 「現在、AとBの作業を並行して進めていますが、Bの作業中にAの問い合わせが頻繁に入り、切り替えに時間がかかっているように感じています。」
- E (Express): 「そのため、AとB、どちらの作業も集中しにくく、少し効率が落ちているように感じております。」
- S (Specify): 「もし可能でしたら、午前中はA、午後はBのように、時間帯で作業を分けることを試してみてはいかがでしょうか。または、問い合わせ対応の時間を区切るなど、何らかのルールを設けるのはどうでしょう。」
- C (Consequence): 「そうすることで、それぞれの作業に集中でき、全体の生産性向上につながるのではないかと思います。」
状況2:会議で自分の意見を述べたいが、発言するタイミングを逃しがちな場合
会議中、発言のチャンスをうかがってしまう方も多いかもしれません。
- D (Describe): 「今の〇〇さんのご意見についてですが、」
- E (Express): 「私も同様に感じている部分と、少し異なる視点を持っている部分がございます。」
- S (Specify): 「私の考えでは、〜という点が重要だと考えます。具体的には、〜することで、より良い結果に繋がるのではないでしょうか。」
- C (Consequence): 「この視点も踏まえることで、より多角的な検討ができるかと思います。」
状況3:チームの進捗について懸念があり、共有したい場合
「このままだとまずい」と感じていても、感情的に伝えるのではなく、事実と懸念を冷静に伝えます。
- D (Describe): 「現在のプロジェクトXの進捗状況ですが、先週の計画と比較して、Yの部分が予定より遅れているようです。」
- E (Express): 「このままでは、期日までに目標達成が難しいのではないかと懸念しております。」
- S (Specify): 「つきましては、一度チーム全体で進捗状況を確認し、もし必要であれば、Zのタスクを優先するなど、今後の対応策を話し合う機会を設けていただけないでしょうか。」
- C (Consequence): 「そうすることで、最終的な目標達成に向けて、手遅れになる前に対処できるのではないかと思います。」
5. アサーティブな意見表明のためのさらなるポイント
これらの具体的なフレーズに加え、以下のポイントも意識することで、より効果的に意見を伝えられるようになります。
- 「私」を主語にする(Iメッセージ): 「あなたは〜すべきです」という「Youメッセージ」は相手を責める印象を与えがちです。「私は〜だと感じています」「私は〜してほしいです」という「Iメッセージ」を使うことで、自分の気持ちや状況を伝えつつ、相手を尊重する姿勢を示せます。
- タイミングを選ぶ: 相手が忙しそうにしている時や、感情的になっている時は避け、落ち着いて話せる時間を選ぶことが大切です。事前に「少しお話ししたいことがあるのですが、今よろしいでしょうか」と確認するのも良い方法です。
- 具体的に、簡潔に: 漠然とした意見ではなく、「何について」「どう感じているか」「どうしたいか」を具体的に、そして簡潔に伝えましょう。
- 非言語コミュニケーションも意識する: 話す内容だけでなく、表情、声のトーン、姿勢も重要です。落ち着いた表情で、穏やかな声のトーンで話すことを心がけましょう。
- 相手の意見も聞く姿勢を持つ: 自分の意見を伝えたら、相手がどう感じたか、どのような考えを持っているかにも耳を傾ける姿勢を示しましょう。これにより、一方的な主張ではなく、対話の姿勢を示すことができます。
6. 今日からできる!アサーション実践練習
アサーションスキルは、練習すればするほど身についていくものです。まずは小さなことから試してみましょう。
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小さな意見表明から始める:
- 休憩時間の飲み物を選ぶ際に「私はコーヒーがいいです」と伝える。
- 同僚とのランチで「私は〇〇に行きたいです」と提案する。
- 会議の場で、簡単な質問や賛同の言葉から発言してみる。
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伝えるフレーズを事前に準備する:
- 伝えたい内容があるとき、この記事で紹介したDESC法などを参考に、話す内容を頭の中で整理したり、メモに書き出したりしてみましょう。事前に準備することで、落ち着いて話せるようになります。
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自己対話でシミュレーションする:
- 実際に意見を伝える場面を想定して、一人で声に出して練習してみましょう。どのような言葉を選び、どのようなトーンで話すかを確認できます。鏡に向かって練習するのも効果的です。
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完璧を目指さず、一歩ずつ:
- 一度で全てがうまくいく必要はありません。少しずつでも「言えた」「伝えられた」という成功体験を積み重ねていくことが自信につながります。失敗しても、それは次に活かせる学びとなります。
まとめ
職場でのコミュニケーションにおいて、自分の意見を適切に伝えることは、人間関係のストレスを軽減し、より健全な職場環境を築く上で非常に重要です。アサーションは、自分の気持ちを大切にし、相手も尊重するという土台の上で、正直かつ率直に自己表現するための強力なツールとなります。
「言いたいこと」を心の中にしまい込まず、この記事でご紹介した具体的なアプローチやフレーズ、練習方法を参考に、今日から一歩踏み出してみませんか。あなたが自信を持って意見を伝えられるようになることで、きっと職場の人間関係がより良好になり、仕事への満足度も高まるはずです。